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船所順子さんのアフタヌーン・ティー教室

先生お手製のケーキ
 
プラザホテル「パームコート」
満載!3段トレイ
キャビアどっさりパンケーキ
☆スモークサーモンとターキーのカナッペ
 
落ち着いた雰囲気のフォーシーズンズサロン
洗練されたフォーシーズンズのテーブルセッティング
 
グラマシーのレディー・メンデル
シックな店内
☆玄関脇の小さなサイン。看板はこれだけ!
笑顔の給仕さんがお茶を注いでくれる
 
ティーウェアもフォション
☆フォション店内
フランス菓子がいっぱい!
 
アリエル店内。窓際ソファー席が大好き!


          § 紅茶の話 §

何もすることのない午後、好きな音楽を聴きながらゆっくりと紅茶を飲むのが好きだ。それも香りのすこしきつい種類、ベルガモットの香りのアールグレイ、時には燻した松の匂いが香ばしいラプサンスーチョンなんかもいい。美味しいお菓子や、上品な甘さのケーキ、お腹がすいているときは、焼きたてのスコーンなんかがあると申し分ない。

英国にはこのような贅沢なお茶の時間を過ごす、アフタヌーン・ティーという習慣がある。どうせ好きな紅茶なら、その起源や歴史をもっと知りたいと勉強会に出かけることにした。

ニュージャージー在住の船所順子さんが指導される「アフタヌーン・ティー教室」が、ニッポンクラブで開かれたのだが、訪れてみて若い人たちの多いことに驚いた。

私は若い頃にはコーヒーと酒しか飲まなかった。お茶なんて「茶のみ友だち」という言葉があるくらいだから、年寄りの飲み物だと思っていた。時折母が煎れてくれる日本茶はほんのりとした甘味があり美味しいと感じたが、それを自分で煎れてまで飲もうとは思わなかった。せいぜい飲むお茶といえば、夏場の清涼飲料水感覚の麦茶くらいのものであった。

受験生だった高校生の頃、さあやるぞと熱いコーヒーをマグカップに入れ、深夜ひとりで勉強机に向かったことがある。冷めるのが嫌だから「百人一首――その解釈と解説」という薄めの本で蓋をした。明け始めた朝の気配に気がつくと、広げたままのノートはヨダレでシミがつき、蓋をしたままの熱いコーヒーはすっかり冷めきっていた――なんていう安モンのコーヒーより苦い思い出があるのだが、思うに、コーヒーは何かを始めるときに意気昂揚のために飲むもの、それに対して紅茶日本茶は何も目的がない時間をぼんやりと過ごして気持ちを鎮めるために飲むものという気がする。

さてこの「アフタヌーン・ティー教室」、とにかく紅茶が好きだという独身女性はもちろんのこと、幼稚園に通う子どものお友だちを招いてティパーティーを…という若いお母さん方に混じって、私も久々に花嫁教室で勉強するような気分である。

アフターヌーン・ティーの習慣が英国で生まれたのは今から150年も前のことだそうだ。19世紀の中頃、7代目ベッドフォード公爵夫人のアンナ・マリアが、当時夜8時から9時頃に始まる晩餐までの空腹を満たそうとしてお茶と軽いケーキやサンドイッチをメイドに運ばせたのが始まりといわれているらしい。

茶そのものは中国南西部四川省あたりが発祥地とされる。それが馬、牛、ラクダの背に乗せられて陸路から伝わった広東語の「CHA(チャ)」となり、もうひとつはポルトガル人やオランダ人などが海路を通じてヨーロッパに広めた福建省アモイ語の「TE(テ)」となったという。

日本へは遣隋使の頃に大陸文化と共に持ち込まれ、その後平安時代に渡航した最澄が茶の種子を持ち帰り、空海が茶の製法を伝えたといわれる。鎌倉時代に入り栄西禅師が宋から茶の種子を持ち帰り京都に植えて栽培に成功、安土桃山時代千利休によって開かれた茶道へと発展の道をたどる。

であるから、茶とTeaは元は同じ、英国の紅茶文化と日本の茶道とは親戚なのだから日本人の紅茶好きもうなづけるというわけである。

現在世界中で飲まれている茶、原料はチャの木である。植物学的にみたチャはツバキ科に属する常緑樹、学名を「カメリア・シネンシス(Camellia Sinensis L.O.Kuntze)」と呼ぶそうで、その製法によって3つに大別されるようだ。日本茶(緑茶)は不発酵茶ウーロン茶に代表される半発酵茶、そして紅茶は発酵茶である。因みに世界三大紅茶インドのダージリン、中国のキーマン、そしてスリランカのウバなんだそうである。

と、先生手作りのお菓子やケーキを美しい盛り花と共にテーブルセッティングしつつ学習したあと、最後は紅茶の美味しい入れ方を実践して皆で美味しく頂いたという次第である。

さて、これだけ紅茶について勉強したからには、巷に出てアフタヌーン・ティーを実地体験せねばなるまい。社会学にも机上で勉強するだけでなく、実際に現地に赴いて学ぶという行動社会学がもてはやされる昨今、英国伝来のアフタヌーン・ティー文化がここニューヨークにどのように伝えられているかを研究にでかけた。

まず、セントラルパークに面するプラザ・ホテル。世界各国の首脳や有名人も宿泊するという超豪華ホテルである。近年では映画「ホーム・アローン2」でケヴィン少年が独りでクリスマスを過ごした、あのホテルである。そのロビーホールにある「パームコート」というレストランで午後3時半から6時までアフタヌーン・ティーがサーブされる。「男性はスラックスに襟付きシャツを着用、短パンとサンダルは禁止、ジーンズとスニーカーはまあいいでしょう」という比較的カジュアルなドレスコードなので気後れせずに入れた。

豪華絢爛たる装飾の中、恭しい給仕に案内されてテーブルにつく。レストランの一画では生のハープ演奏がなされる。

ここではキャビアが美味しいと聞いていたので、Deluxe Aristocratic Tea Menu (豪華貴族的?)なるものを選んだ。クロテッドクリーム、ジャムを沿えた焼きたてスコーン、一口サイズのケーキ菓子類はもちろんのこと、キャビアがどっさり乗ったパンケーキ、スモークターキーをあしらった人参パン、スモークサーモンが載った穀物パンがカナッペスタイルで出てきて、きれいさっぱり平らげた。お味、雰囲気とも申し分ない。

次は57丁目にあるフォーシーズンズ・ホテル。このホテルはプラザ・ホテルの豪華絢爛とはうって変わって、大理石と木を基調としたシックな近代的ホテルである。ホテルエントランスもシンプルで表通りからはただのビジネスビルかと思うほどで、だから外の喧騒に比べてホテルロビーは静かで落ち着けた。

アフタヌーン・ティーはロビー階のラウンジで戴ける。トラディショナルな3段様式のトレイで運ばれてきた数々の品、ここではスコーンが一際美味しかった。シンプルなスコーンのトップに粗目糖が焼き込まれており、適度な歯ごたえと甘味が美味しかった。

ホテルを利用するとき、フロントマントイレの場所を尋ねることにしている。その受け答えの様子とトイレの清潔さで大体そのホテルの快適さが測れる。丁寧に答えるフロントマンでも、慇懃無礼を感じる時は居心地が悪い。そういう意味ではここフォーシーズンホテルは申し分ない。くだけ過ぎず気取り過ぎずさわやかな笑顔でトイレを案内してくれ、使ったパウダールームも清潔で美しかった。年喰ったオバハンのチェックはさりげなく、そして厳しい

けっこう高級といわれるレストランでさえ、紅茶を頼むとティーバッグで出てきたりするアメリカという国、有名どころのホテルでアフタヌーン・ティー文化はちゃんとリーフティーでサーブされていて一安心。では、巷のティーショップでは如何なものか。

ニューヨークで長年暮らす知人にアレンジしてもらって、グラマシー地区へ出かけた。ミッドタウン34丁目のエンパイアステートビルから南東方面の一画が、優雅な門やポーチのある豪邸が集まる高級住宅街グラマシーである。その歴史を感じさせる町並みに、1834年に建てられた古いお屋敷を利用して「レディメンデル・ティーサロン」はある。

目立つ看板は何もない。ただ住所を頼りに何度か前を通り過ぎて、ようやく玄関ドア脇の小さなティーカップ柄のサインを見つけた。派手な宣伝もしていないので、知る人ぞ知るといった地元の隠れ家的存在のお店である。しかしその人気は高く、予約のみで味わえるアフタヌーン・ティーは数か月先まで予約がいっぱいである。

ここで出されるメニューはアフタヌーン・ティーというより、食事としての役割が大きいハイ・ティー様式である。まず、新鮮な野菜をさっぱりとしたドレッシングで和えたグリーンサラダから始まる。その後のフィンガーサンドイッチは、ゴートチーズとサンドライドトマト、キュウリとミントクリーム、スモークサーモンとディル入りクリームチーズ、スモークターキーとクランベリーの4種の中から好きなものを好きなだけ何度もお代わり自由である。

クロテッドクリームジャムを添えたスコーン、ケーキは薄焼きクレープを何層も重ねてクリームを挟み込んだミルクレープにフル−ツを添えて、そしてお菓子はイチゴのチョコレート掛けとクッキーを数種、お茶は自分の好みのものを途切れることなく給仕がサーブしてくれる。

渋い調度のこじんまりとしたこのティール−ムでは、併設された宿泊施設に滞在する客が、まるで我が家で寛ぐようにソファでお茶を楽しんでいた。大都会の大ホテルのラウンジとは一味違ったアフタヌーン・ティーが「レディメンデル・ティーサロン」では味わえた。

最後は日本でもお馴染みの「フォション」である。かつて日本ではフォションブームが捲き起こった。当時世間はアップルティーブームで、「徹子の部屋」の黒柳徹子さんが番組内で「簡単なアップルティーの作り方」と称して、『お茶の種類はなんでもいいから生のりんごをくるくる剥いて、剥いた皮をティーポットに一緒に入れて熱湯を注ぐとはい出来上がり!』と紹介していらした。それほどのアップルティーブームの火付け役となったのが、フォションのアップルティーであったと思う。

パークアヴェニュー57丁目のお店は、フォションのあらゆる商品を販売する広いスペースに加えて、ティールームが併設されている。金色缶に黒字で「FAUCHON」が懐かしい。腰の周りだけをカバーするかわいらしいエプロンを見つけて驚いた。ティ−カップ柄のかわいらしいその製品はなんと「日本製」と日本語で書いてある。やはり日本での根強いフォション人気が伺えた。

フォションのアフタヌーン・ティーは英国式とは少し異なる。フィンガーサンドイッチは同じだが、スコーンに代わるのはやはりフランスということでマドレーヌである。一口サイズのお菓子は、これもフランスの代表菓子マカロンで、外はさっくり中はしっとりという食感の対比が絶妙である。他にもチョコレートやクッキー類がたくさんサーブされて、結局食べきれずに「お持ち帰り」にしてもらった。

英国貴族が後世に伝えたアフタヌーン・ティーの習慣は、本場英国だけに留まらず、その様式はそれぞれの国で少しずつ形を変え、しっかりと伝承されているようである。ここニューヨークのいくつかの場所でも、アメリカ式にアレンジされたアフタヌーン・ティーをいただくことが出来た。まだまだアフタヌーン・ティー行脚は続きそうだけれど、次にどこへ行こうかと考えて思った。

やっぱり神戸の「アリエル」が忘れられない。マスターが解説付きで入れてくれるラプサンスーチョンと、奥様手作りのシフォンケーキとスコーンは最高!と思い出しつつ、一気に里心のついた夏の終わりであった。

 

神戸の紅茶専門店「ARIEL(アリエル)」のウェブサイトはこちら
http://www11.ocn.ne.jp/~ariel80/

 

 

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