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愛車ミニと記念撮影!その巨大さが解ります
六麓荘町の豪邸
(カーソルを近づけると…)

 

 
 

 

 

 


 

§ 春の夜の椿事 §


夜9時ごろ、玄関の鍵を開けようとする音がした。うちの鍵は上下2個あるので施錠している状態によって非常に開け難い。両方開けたつもりが片方だけしか施錠してなかったために上下どちらの鍵が開いてるのか解らず何度もがちゃがちゃとやり直すハメになる。

その夜も何度もがちゃがちゃと操作している音がした。しかし開かない様子。娘が帰ってきたのかと思い玄関に出て声をかけた。「おかえり、エリちゃん?」「………」応答がない。あれっ?と思って玄関ドアスコープを覗いてみる。誰もいない。思わず背筋がゾワッと粟立つ。

夫は出張中だ。息子も引っ越した。今は自宅に娘とふたりだけ。娘でないとすると誰なのか…。隣の犬が激しく吠えはじめる。庭に敷き詰めた砂利石がジャリッと鳴る。背筋の粟立ちは上下肢にまで広がる。町内の掲示板に貼られていたポスターが脳裏に蘇る。『空き巣狙いはあなたの家を狙っています』

芦屋市にはイカツイ家が多い。山の手の六麓荘(ろくろくそう)町には博物館と見紛うばかりの個人の豪邸もある。そういった家の玄関脇には大抵警備会社のマークが貼られている。うちの前のお宅は我が家の玄関よりも立派な門構えがあるのだが、その脇には「○○家勝手口」とある。よしんば物盗りが狙ったのだとしても、その標的がなぜ長屋の一軒である我が家なのかが解せない。

怖くて庭を確かめにいく勇気もない。どうしよう…と途方にくれながら娘にメールをうつ。かくかくしかじか…最初冗談だと思っていた様子の娘が冗談ではないと解り、急いで帰宅するからそれまでしっかりとドアチェーンをしておくようにと返してきた。そこで家の電話が鳴りしばらく友人と雑談。返信できないまま携帯には娘から何度もメールがよう…と途方にくれながら娘にメールをうつ。かくかくしかじか…最初冗談だと思っていた様子の娘が冗談ではないと解り、急いで帰宅するからそれまでしっかりとドアチェーンをしておくようにと返してきた。そこで家の電話が鳴りしばらく友人と雑談。返信できないまま携帯には娘から何度もメールが入り続ける。

「ちょっと大丈夫?」

「お母さん?大丈夫なの?」

「お母さん大丈夫ならすぐにメールください」

そこで友人との電話が終わり急いで返信する。

「ごめん、ごめん、電話中やった」

「死んだか思うたやんけ………」

私が返信出来ずにいた間、彼女は侵入した暴漢に襲われる母親を想像して今までの親不孝を悔いたに違いない。

ほどなく帰宅した娘と相談、とりあえず警察に見回ってもらおうと110番に電話する。

「はい、こちらひゃくとおばん。どうされました?」

これこれしかじかと説明し、近くの警察署の番号を教えてもらう。あらためてかけなおし事情を説明するとしばらくして警察官が4人もきてくれた。玄関から家の横の通路、そしてジャリッと鳴った庭までをも見回ってくれる。あたりの物陰に不審者が潜んではいないかと懐中電灯を照らしながら調べてくれる。その間警察官の携帯した無線機からは柳沢慎吾のタバコパッケージのネタよろしく警察電波で情報がやりとりされる。

「はい、こちら○○市△△町××―×、自宅玄関を開けようとする不審者があり現場に急行、どうぞ」

「(ビリビリ)はい了解」

結局、警察官4人で辺りを隈なく見回ってくれたが不審者の発見には至らず、今夜も巡回を続けますということになった。

にしても帰宅したばかりの娘、朝出たままの厚化粧巻き髪の派手な姿に警察官のひとりが問いかける。

「最近ストーカーに遭われたということはありませんか?」

「いえ、そういったことはありませんが…」と答える娘。

「私も別にそんな憶えは…」

と横からいいかけると、私に視線を移した警察官が苦笑い。ふと気づくとスウェット上下にすっぴん、おまけに引越しを控えて荷詰めに勤しんだ疲労がべったりと張り付く我が姿、春の夜の椿事でありました。

 

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