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「葉子」が置いていった(?)葉っぱ
今日も来ないかなあ…と待っていたら…
 
今日も来ないかなあ…と待っていたら…
 
来ました!「葉子」ちゃん

 

 

 


 

§ 初恋 §


朝、洗濯物を干そうとテラスに面したガラス戸を開くと、足元に1枚の落ち葉を見つけた。黄色く染まった大ぶりの美しい落ち葉であった。狭い庭にその葉をつけた木はない。辺りを見回しても同じような落ち葉は見当たらない。きっとこれはあの子が届けたものだと思った。

我が家の次男、元男子、今おかま猫のビンクスは、私とは言葉を介さずに意思の疎通を図る。家族は皆ビンクスの言うことが解らぬらしいが私にはすべて理解できる。「ごはんちょうだい」も「抱っこして」も「グヮンニャン」「ダッコニャン」と微妙に違った鳴き方をする。最近我が家の人間の子どもたちの悪影響で「おかん」と呼んだのでたしなめると、ちゃんと「おかんにゃん」と言い直した。よい子である。

そのつぶらな瞳で見上げながらゴロゴロニャンと話しかけられると、たちまち気持ちが優しくなる。だから子どもたちは私に話しかける時にはまずビンクスを連れてやってきて、私に抱かせておいてから本題を切り出す。大抵小遣いの追加申請であるが、そういう時は私も猫になる。「にゃん?ニャン!」(「何?No!」)これで決まる。

ビンクスとの会話はいつもしっかりと見つめ合ってかわすから、私の居ないところで彼の声を聞くことはない。ところが先日ひとり陽だまりで昼寝をしていると思っていたビンクスがなにやらニャォニャン…と独り言をつぶやいているのを耳にした。「何かしら…」と思って居間を覗くと、テラスへ向かって話しかけている。ガラス戸越しに見やるとそこには黒白のかわいらしい猫が来ていた。見知らぬ猫は言葉を発さずにじっとビンクスを見つめている。ビンクスは初めての珍客に思いっきりのもてなしをしているのか、なにやら一所懸命喋り続けている。しばらくふたりの様子を見ていた。

思えば不憫な猫である。フロリダで我が家にもらわれてきて以来、猫の友だちはいない。公園へ連れ出しても怯えてケージの中へ頭を突っ込み、動物病院で他の動物に出会えば私の懐の中でぶるぶると震えが止まらぬ始末であった。そのビンクスがこれほど他の猫に自分から意志を伝えようとする姿にはっとした。これはロマンス?

早速ガラス戸を開き、美人猫を招きいれようとした。ところがこのお客様、普段はノラであるらしく、ガラス戸を開く私の姿を見て一目散にどこかへ逃げてしまった。ビンクスは彼女が逃げた方向へ家の中を走り回る。またガラス戸の前に戻ってきて悲しそうに私の顔を見上げた。

「逃げちゃったね…また来てくれるといいね」

ビンクスにはそう話しかけて一握りの鰹節削りをテラスに置いた。夕刻洗濯物を取り入れるとき、その一握りのごちそうは消えていた。そして翌朝、美しい一枚の葉っぱが置いてあった。

「ビンちゃん見てごらん、これきっと昨日のあの猫ちゃんがくれたのよ。ちゃんと『ありがとう』が言えるいい子だね、また来てくれるといいね」

それからビンクスと私は彼女を「葉子」と名づけた。

今日も山盛りの鰹節削りをテラスに置いた。昼下がり、ビンクスの楽しそうな話し声を聞いた。山盛りの鰹節削りはきれいに消えていた。ビンクス4歳、初恋のようである。