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ビンクスの「冬彦さん」覗き
 

 

 

 


        
        
          § ずっとあなたが好きだった §


「朝ドラ」
にハマっている。といってもNHKではない。TBS系、関西では4チャンネルで朝10時から再放送されている「ずっとあなたが好きだった」である。

本放送は1992年の7月から9月であったらしいから、今から早13年も前になるのか。賀来千香子扮するヒロインと見合い結婚したのが佐野史郎扮する「冬彦さん」。その鬼気迫る「マザコン夫」ぶりが当時演技なのか地なのかと話題になったほどである。

見合い結婚した妻の過去に拘り、精神的に妻を追い込む。かつての悲しい純愛を封印し、新しい生活に踏み出そうとする妻の妊娠を聞き、「誰の子なんだ…」と疑う。妻の一挙手一投足を物陰から冷たく見つめる半分だけの顔。引越し荷物の中から出てきた膨大な量の蝶の標本。

冬彦さん登場の場面でかならず流れる音階のない不気味な効果音は秀逸で、言葉で表現するなら「誰もいない薄暗く湿った鍾乳洞に閉じ込められた人が、蝋燭一本の灯りの中瀕死の状態で助けを求めて、壊れかけのマリンバをあちこち叩いているような音」である。そして「冬彦さん」のその不気味さは回を追うごとにエスカレートしていく。

今日の放送では、数え切れないほどのぬいぐるみに囲まれた自室で、青白く灯る蛍光灯に照らされながら、アンティーク人形を抱きあげて「高あぃ高あ〜ぃ…」と赤ちゃんのようにあやす「冬彦さん」。「気持ち悪るぅ…」と思いながらついつい画面に見入ってしまうのである。

ところでこの番組を見ていて気がついた。本放送のときにも見ていた記憶があるのだが、自分の観る視線が当時とでは全く違っている。13年前といえば私もまだ三十路の元気な頃。子育てで髪振り乱し自分の身を構う余裕などはなかったが、気持ちは主人公の賀来千香子に入り込んでいた。

ある女生徒を自殺に追いやった負い目から布施博扮する「大岩君」との純愛を諦めたヒロインが、不運を乗り越えて純愛を貫こうとする姿に自身の青春のときを重ね合わせ、「頑張れ頑張れ」とエールを送っていたものだ。

ところが今は、どうもあの「冬彦さん」のお母さんが気になる。野際陽子の演技もさることながら、その一人息vとエールを送っていたものだ。

ところが今は、どうもあの「冬彦さん」のお母さんが気になる。野際陽子の演技もさることながら、その一人息子を思う異常母ぶりが半端じゃなく凄い。

嫁には高飛車、嫁の親には融資を理由に「これは家と家との結婚」と脅しをかける。仕事でミスを犯した息子の為に「菓子折り袖の下持参」で上司を訪ね、「息子のこの度の不手際、どうぞお許しを〜」と土下座である。そして風邪をこじらせ高熱で寝込む30息子に「はい、あーんして…」と桂田家伝来の手作り大根はちみつをスプーンで飲ませるのであった。この母の異常愛、どのような展開を見せるのか、最終回まで目が離せない。

にしてもこの野際陽子という女優、こういう偏執愛を演じさせれば右に出る者はいない。1996年に放映されたNHKの大河ドラマ「秀吉」で村上弘明扮する明智光秀の母を演じた時も、その息子に拘わる母親の愛憎を表現する演技に注目した。秀吉、竹中直人の怪演、信長、渡哲也の渋い演技と共に、彼女の好演が心に残っている。

しかし野際陽子といえば、私たちの年代ではなんといっても「キイハンター」である。1968年から75年までTBSで放映されたアクション番組であるが、1936年生まれとある彼女が当時出演していたのは30代。しかし、とてもそんなふうには見えなかった。

サングラスをヘアバンド代わりに押し上げたロングヘア、オープニングで披露するアクションは細身のパンタロンスーツで颯爽とこなす。当時からも知的な彼女であったが、年を重ねるごとにハイソ、ノーブルな感じに磨きがかかった。近年、ハリウッド映画「キルビル」で妙な刀鍛冶を演じていたサニー千葉(千葉真一)とはエラい違いである。

普段、あまりテレビを観ない。必ず観るのは金曜深夜の「探偵ナイトスクープ」だけなのだが、それがなぜ平日朝10時からテレビにハマったかというと理由がある。

先日持病のギックリ腰を久々にやってしまった。若い頃なら2、3日安静にしていれば治ったのだが、歳のせいか今回はどうも長引いてすっきりしない。しかもきっかけは重い物を持ち上げたとか急激な運動をしたとかではなくて、ただパンストを履こうとしただけである。中腰になって拡げたパンストに片足を突っ込みかけてギクッときた。そのままヘナヘナと横たわったまま、今日で1週間。そんな状態であるから家事は当然こなせないまま、TVウォッチャーの思いは巡ったという訳である。

携帯メールをリモコン代わりに使いながら成人した子どもふたりに指令を出す。「ゴミ出し済んだ?」「夕飯はほか弁お願いね」なんてメールだけ発信しといて、寝たままテレビ漬け。

「ぐうたらな生活もなかなか…」と、ほくそ笑んでいたら何やら背中に視線を感じた。振り向くと「冬彦さん」よろしく、顔を半分だけ物陰から出した猫っ可愛がりのビンクスが、飼い主の怠慢を叱責するようにニャァ…と鳴いた。

ビンクスちゃん、おかあさんは「ずっとあなたが好きですよぉ…」

 



 

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