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むさし本店
 
「のりちゃん」とお父さん
 
やまかけ蕎麦(自然薯の風味が最高!)
 
熱々のにしん蕎麦

 

 

 


        
        
         § むさし本店 §


美味しい蕎麦を食べた。神戸市伊川谷町にある「江戸前そば むさし本店」である。やまかけ蕎麦が好きでいろんな店で試してみるがこの店のやまかけ蕎麦は絶品である。やまいもの風味が生きており、これぞ自然薯という旨味が味わえる。創業大正10年というこの店で蕎麦を打つのはご主人、そして今やその蕎麦を茹でる担当は息子さんの「のりちゃん」である。

実はこの「のりちゃん」、娘の小学校時代の同級生である。有瀬小学校の同じクラスで出会ったのりちゃんは身体の大きな元気いっぱいの少年であった。大きな身体に似合わず色白で心優しい「のりちゃん」は、いつも皆の人気者であった。ある時授業参観に出かけて学級文集をいただいた。子どもたちの色とりどりの将来の夢が綴られたその文集に「のりちゃん」の作文があった。

「ぼくのお父さんはそばやです。お父さんの作るそばはとてもおいしいです。ぼくも大きくなったらお父さんのようにおいしいそばがつくれるそばやになりたいです。」

折しも上の子を塾に通わせ、教育母を自認していた只中であった。「ウルトラマンになりたい」「新幹線の運転手になりたい」という素朴な子どもの夢にもいつしか耳を傾けなくなり、ただ目先の偏差値を上げることだけに子どもたちを叱咤激励していた日々であったから、その「のりちゃん」の作文にガツンと頭を殴られたような衝撃を受け、気持ちがなんだか柔らかくなっていったのを憶えている。

後日蕎麦をいただきにむさし本店に伺った時に、お店にいらしたおばあちゃんにのりちゃんの作文に感動したことを伝えた。おばあちゃんはただただうれしそうに頷かれ、後ろにはいつもにこにこと笑顔を絶やさぬおかあさんがいらした。この店で蕎麦を打つ父の姿を見おばあちゃんやおかあさんの笑顔に包まれて、そして「のりちゃん」のあの作文が書かれたのである。

娘は小学校6年生の時に有瀬小学校から転校した。それ以来「のりちゃん」とは会っていない。あれから10年、そのうち5年近くを海外で過ごしたこともあり、むさし本店の蕎麦にもずいぶんご無沙汰してしまった。そして今日久しぶりにお店を訪ねたら、しっかりと小学生の時の夢を実現した「のりちゃん」が変わらぬ笑顔でそこにいた。

大蔵谷インターを出て旧神明道路を西に走る。有瀬小学校のある有瀬交差点を過ぎると子どもたちが通った通学路である。太陽を浴びてキラキラと輝いていた赤や黒のランドセルが記憶の中から呼び起こされるその風景の中に、懐かしい「むさし本店」はあった。残念なことに旧神明道路沿い北側に目立っていた大きな看板は先の台風で壊れてしまったそうであるが、お店の前の信楽焼きの大きな狸が笑顔で出迎えてくれた。




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